改正法に基づくパワハラ指針案

改正法に基づくパワハラ指針案

<法改正>

令和元(2019)年5月29日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が通常国会で可決・成立し、令和元(2019)年6月5日に公布されました。

施行日は、公布後1年以内の政令で定める日となっています。

職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。そして、適切な措置を講じていない場合には、所轄労働基準監督署などによる是正指導の対象となります。

ただし中小企業は、公布後3年以内の政令で定める日までの間は、努力義務となります。

 

<職場におけるパワーハラスメント>

職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものです。

【パワハラの3要素】

1.優越的な関係を背景とした

2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

3.就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 

2.から分かるように、適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラに当たりません。

 

<事業主が講ずべき措置>

上記の内容だけでは、事業主が講ずべき措置の具体的内容等が不明確です。

そこで、厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会が、パワハラ防止のために企業に求める措置に関する指針を検討し、令和元(2019)年10月21日に素案を示しています。

この指針は、パワハラにより労働者の就業環境が害されることの無いよう、雇用管理上講ずべき措置等について、事業主が適切かつ有効な実施を図るために必要な事項について定めたものです。

指針案では、事業主等の責務と行うことが望ましい取組みの内容が、次のように示されています。

 

【事業主等の責務】

1.パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること

2.パワハラには厳正に対処する旨を就業規則等に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること

3.相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

4.相談窓口の担当者が、相談に対し適切に対応できるようにすること。また、現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合等も広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること

5.パワハラに係る相談の申出があった場合、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること

6.パワハラの事実が確認された場合、被害者に対する配慮措置を適正に行うこと

7.パワハラの事実が確認された場合、行為者に対する措置を適正に行うこと

8.パワハラの事実が確認された場合、再発防止措置としてパワハラに関する方針を改めて周知・啓発する等を講じること

9.パワハラに係る事後対応にあたっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること

10.パワハラに関する相談を行ったこと等を理由とする不利益取扱いはされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

 

【行うことが望ましい取組みの内容】

1.相談窓口は、セクハラ・マタハラ等他のハラスメントに関するものと一体的なものとして設置し、一元的に相談に応じることができる体制を整備する

2.パワハラの原因や背景となる要因を解消するため、コミュニケーションの活性化や円滑化のための取組みを実施する

3.パワハラの原因や背景となる要因を解消するため、適正な業務目標の設定等の職場環境改善のための取組みを実施する

4.自ら雇用する労働者以外の者(個人事業主、インターン、就活生等)に関する取組み

 

<パワハラの定義の問題>

客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

しかし、今回公表された指針案の中で、パワハラに該当しない例として、次のようなものが示されました。

 

【パワハラに該当しない例】

〇誤ってぶつかる、物をぶつけてしまう等により怪我をさせること

〇遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意をすること

〇その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、強く注意をすること

〇新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施すること

〇処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させる前に、個室で必要な研修を受けさせること

〇労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること

〇業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること

〇経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること

〇労働者の能力に応じて、業務内容や業務量を軽減すること

〇労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと

〇労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと

 

これらの例は、パワハラに該当しないことが明らかなものが中心となっています。

しかし、企業にとって必要なのは、パワハラ該当性について判断が困難な限界事例であると思われます。

指針の内容について、今後、一層充実したものとなることが期待されます。

 

社会保険労務士 柳田 恵一