社外での犯罪と懲戒処分

社外での犯罪と懲戒処分

<懲戒処分の制限>

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第15条〕

会社が「常識」に従って懲戒処分を行ったものの、その具体的な懲戒規定が就業規則などに無い場合には、「労働者を懲戒することができる場合」ではないので、懲戒権の濫用となり、懲戒処分が無効となります。

この場合には、懲戒処分の対象とされた労働者から会社に対して、慰謝料その他の損害賠償を請求できることになります。

人手不足で採用難、転職は容易という現状であれば、その労働者は転職したうえで損害賠償を請求してくる可能性が高そうです。

<社外での犯罪行為の例>

社外で犯罪行為を行う例としては、次のようなものが考えられます。

 

公休日に飲酒し酔った従業員が、他の従業員2人に対し、殴る蹴るなどの暴行を働いて、被害者のうち1人は救急車で運ばれた。

 

モデル就業規則の最新版(平成31(2019)年3月版)は、次のように規定しています。

 

【懲戒の事由】

第66条  労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

③ 過失により会社に損害を与えたとき。

 

ある従業員が、酔って他の従業員に暴行を加えケガをさせるという場合、会社に損害を加える故意があるのは稀でしょうから、過失により損害を与えたと評価されるでしょう。ですから、一般にはこの規定が適用されそうです。

被害者が自社の従業員である事例ですから、労働力の一部喪失という具体的な損害が発生していることは明らかです。

 

また、厚生労働省のモデル就業規則には、犯罪行為について次の懲戒規定があります。

 

【懲戒の事由】(つづき)

第66条 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

 

会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。

 

社外での犯罪行為であれば、プライベートなものであり会社が関与しないとするのでしょう。

もし、会社に損害を加えるようなものであれば、懲戒解雇はできないにしても、「過失により会社に損害を与えたとき」にあたるので、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とすることはできます。

しかし、先ほど挙げた例で、被害者が従業員ではなく会社と無関係な人々であったなら、必ずしも会社に損害が発生するとは限りません。

これらは、厚生労働省のモデル就業規則をそのまま適用したらどうなるかという仮定の話です。

 

<被害は会社によって異なる>

つぎに、先ほどの犯罪行為の内容を少し変えた例について検討します。

 

公休日に飲酒し酔った従業員が、見知らぬ通行人2人に対し、殴る蹴るなどの暴行を働いて、被害者のうち1人は救急車で運ばれた。

 

これがネットで通信販売を営む小規模な会社でのことだとします。知名度の低い会社での話なら、会社の評判が落ちて売上が大幅に減少するということもなさそうです。

ところが、全国的に知られた大手企業での話だとすると、全く事情が変わってきます。「過失により会社に損害を与えたので始末書を提出します」だけで、加害者が許されてしまうのは不合理な気がします。

加害者となった従業員としては、知名度の高い会社で働いているのだから、何か事件を起こせば世間で騒がれて、会社に大きな損害を加えそうだという認識はあるでしょう。公休日といえども、深酒して犯罪に走ることがないように注意すべき立場にあったといえます。

なお、冒頭に掲げた労働契約法第15条にある「その他の事情」には、会社の知名度や世間の会社に対する信頼なども含まれます。

このように考えると、知名度の高い会社ならば、たとえ社外での犯罪行為であっても、場合によっては懲戒解雇もありうるという就業規則にしておく必要を感じます。

 

社会保険労務士 柳田 恵一