試用期間を巡るトラブル防止法

試用期間を巡るトラブル防止法

<採用段階での工夫>

採用担当者が「試用期間中に人物と基本的能力を見極めればよい。そのための試用期間だ」と思ってしまうと、応募者を厳しい目で見なくなってしまいます。

それでも、無事に試用期間をクリアして本採用になれば良いのですが「正社員として当社に迎え入れるには今一つ物足りない」ということで不採用になると、新人の入社手続きも育成も無駄になり、かかわった人たちの疲労、徒労感、会社に対する不信感は決して小さくないでしょう。次に新人が入ってきても、気持よく迎えるのがむずかしいかもしれません。

こうしたことを考えると、採用の段階で「余裕をもって試用期間をクリアできる人」を選抜しなければなりません。応募者の人数にもよりますが、正社員を採用する場合には、面接シートを使い効率良く面接をしても1時間以上かかると思います。

たとえば「パソコンの基本操作はできますか」「はい」というやり取りでは、何も分かりません。「エクセルの関数は何を使いますか」「パワーポイントでどんなプレゼンをしましたか」という尋ね方が有効です。

さらに、こうした「具体的に」という配慮は、求人広告の段階から必要となります。具体的な採用条件に合わない応募は、会社にとっても応募者本人にとっても、時間と労力の無駄になるからです。

<試用期間の保険加入>

雇用保険、健康保険、厚生年金保険については、試用期間であっても所定労働日数や所定労働時間などの条件を満たす限り、入社の初日から加入するのが原則です。もし、試用期間は保険に入れたくないのなら、試用期間の労働日数・時間を減らして契約するしかありません。ただし、これでは応募者が減ってしまうでしょう。

すぐに辞めてしまうかもしれないので、本採用になったら手続きをしようと考える会社もあります。こうした会社は、すぐに辞めてしまうかもしれない人を採用しているということですから、やはり採用段階での見直しが必要です。

 

<解雇が有効となる条件>

試用期間であっても、簡単に解雇できるわけではありません。一般の解雇の場合と同様の制限を受けます。

労働契約法の第16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と書かれています。

「客観的に合理的な理由」というのは、会社の経営者による主観的な判断ではありません。会社の外にある刑罰法規の規定や最高裁判所の判例など、客観性が確保された基準に当てはめて、合理的な理由であることが必要です。

また「社会通念上相当」というのは、世間一般の人たちから見て「解雇するのも仕方のないことだ」と納得できることをいいます。

そして「客観的に合理的な理由がある」「社会通念上相当である」という2つの条件の両方を満たさない限り、会社が解雇権を濫用したことになり解雇は無効となるのです。

解雇が無効になるということは、労働契約が途切れずに続いているということですから、解雇通告から後の期間についても、給与や賞与の支払い義務が発生しているということになります。

法的には、会社に落ち度があって働けなかったのだから、働けなかったことについて本人に責任は無く、給与や賞与の支給を受ける権利があるということになります。

 

<試用期間中の解雇>

もし試用期間中に解雇するのであれば、入社から14日以内にすることをお勧めします。決定的な期待外れや面接の時点での嘘が発覚すれば、短期間での見極めも可能です。14日以内の解雇は、解雇予告手当が要りません。〔労働基準法第21条第4号〕

これは、厳しい対応にも見えますが、本人にとっても試用期間の満了まで拘束されるよりは、別の道を選択できるほうが、将来の職業生活を考えた場合には有利です。

ところが、入社14日を超えてから解雇する場合には、平均賃金の30日分の解雇予告手当の支払いとともに解雇を通告しなければなりません。〔労働基準法第20条第1項〕

実務的には、給与振込口座に解雇予告手当を振り込んだ当日に、本人と面談して解雇の通告をする形になります。

これを全く支払いたくないのであれば、30日以上前に解雇の予告をすればよいのですが、「本採用できない」と判断した戦力外の新人を出勤させ続けるのは、いかにも不自然で他の社員に悪い影響が及ぶでしょう。

 

<試用期間満了時の解雇>

解雇予告手当の支払い義務については、試用期間中の解雇の場合と同じです。これを全く支払いたくないのであれば、たとえば試用期間が3か月の場合、入社から2か月が経過する前に解雇を通告することになります。

ここでトラブルの最大の原因は、本採用の基準があいまいなことです。「当社の正社員としての資質が認められること」などの基準では、誰がどのように判断するのかわかりません。基準があっても無いに等しいといえます。実際、基準が示されない例もあります。少なくとも「会社側が判断する」ということは、明確にしておく必要があります。

 

<労働条件通知書と就業規則の充実>

試用期間については、就業規則に期間を明示しましょう。

延長がありうる場合には、その条件の明示も必要です。また、延長にあたっては、本人の申請書提出を条件とするのが得策です。後になってから、「一方的に試用期間を延長された」と主張されないためです。

労働条件通知書には、本採用の必要条件として、たとえば次のような項目を明記しておきましょう。

「次の条件を満たさない場合には本採用いたしません。

・当社の関係者には自分から進んで挨拶すること

・正当な理由がある場合を除き、無遅刻、無早退、無欠勤

・報告、連絡、相談を確実にすること

・所属部署の社員と同等の電話応対ができること」

これらのことは、他の社員にもあてはまることですから、就業規則には基本姿勢として規定しておくべき内容です。

「常識」についての認識違いのトラブルは、労働条件通知書と就業規則の充実によって予防しましょう。

 

社会保険労務士 柳田 恵一