真実の指摘とパワハラの成否

真実の指摘とパワハラの成否

<報道では>

大手家電量販店の社長が、子会社の社員の実名を挙げて「使い物にならない」などと責めた文書が子会社のイントラネットに掲載され、その社員は4か月後に退社したそうです。

この会社は「社員教育の一環」と説明しています。

「使い物にならない」ことが真実であれば、親会社の社長によるパワハラにはならないのでしょうか。

 

<パワハラの構造>

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

【パワハラの2要素】

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

 

行為者は、パワハラをしてやろうと思っているわけではなく、会社側の立場で行った注意指導などが、無用な人権侵害を伴っているわけです。

 

<業務上不要な人権侵害行為>

業務上必要な行為と同時に行われる「業務上不要な人権侵害行為」には、次のようなものがあります。

 

【無用な人権侵害】

・犯罪行為 = 暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱、業務妨害など

・不法行為 = 暴言、不要なことや不可能なことの強制、隔離、仲間はずれ、無視、能力や経験に見合わない低レベルの仕事を命じる、仕事を与えない、私的なことに過度に立ち入るなど

 

刑事上は犯罪となる行為が、同時に民事上は不法行為にもなります。つまり、刑罰の対象となるとともに、損害賠償の対象ともなります。

 

<真実だとしても>

真実の指摘なら責められる理由は無いだろうというのは素人の考えです。

名誉棄損について、刑法は次のように規定しています。

 

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

 

つまり、生きている人のことについては、真実であろうとなかろうと、名誉を毀損するするような事実の指摘は、犯罪になると規定しています。

 

「仕事が遅い」「ミスが多い」「仕事をサボっている」という指摘を、人前で行ったなら、それは名誉棄損罪に該当するでしょう。

また、多くの社員が簡単に読めるイントラネットの記事に掲載するのも、公然と行ったものと評価されることが多いでしょう。

親会社の社長ですから、パワハラとして懲戒の対象にされるかどうかは疑問ですが、刑事告訴の対象とはなりうるわけです。

また、株主からの批判も小さくないでしょうから、社長を辞任せざるを得なくなる可能性もあります。

 

<真実なら許される場合>

たしかに、「真実を指摘しても名誉毀損罪になってしまうのは納得できない」という考え方もあります。

刑法にも、指摘した事実が真実であれば罰せられない3つの例外が規定されています。

 

【公共の利害に関する場合の特例】

第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

 

整理すると、名誉毀損罪にならないのは、次の3つの場合です。

1.公益を図るため公共の利害に関する真実を述べたことが証明された場合。

2.起訴されていない犯罪に関する真実を述べたことが証明された場合。

3.公務員や立候補者に関する真実を述べたことが証明された場合。

 

どの場合も、会社の業務に関連して行われるものではありません。

業務上の必要があり、たとえ真実だとしても、「公然と」指摘するのは、パワハラや犯罪になりうることを忘れてはなりません。

 

社会保険労務士 柳田 恵一