暴言に対抗して暴行に及んだ社員の処分

暴言に対抗して暴行に及んだ社員の処分

<社内の意見>

職場で暴言を吐かれ、感情を抑えきれずに相手に暴力を振るってしまった社員がいた場合には、他の社員たちから次のような意見が聞かれます。

・最初に暴言を吐いて仕掛けた方が悪い。暴言が無ければ、暴力も無かっただろう。

・あくまでも言葉のやり取りで済ませるべきで、最初に手を出した方が悪い。

・喧嘩両成敗ということもあり、どちらも同じように悪い。

あるいは、当事者の普段の様子を知っている社員からは、全く違った意見が出てくるかもしれません。

<パワハラに該当するか>

職場での暴言や暴力は、パワハラであると判断されるのが一般です。

パワハラは、次の2つが一体となって同時に行われるものです。

 

【パワハラの2要素】

・業務上必要な叱責、指導、注意、教育、激励、称賛など

・業務上不要な人権侵害行為(犯罪行為、不法行為)

 

暴言の中には、指導や教育などの意図が含まれていることでしょう。

しかし、普通の話し方ではなく「暴言」という形で表現してしまうと、それは相手の人権を侵害する行為になり、パワハラとなってしまうのです。

場合によっては、脅迫罪(刑法第222条)、強要罪(刑法223条)、名誉毀損罪(刑法第230条)、侮辱罪(刑法第231条)などに該当することもあります。

 

一方、暴言に対抗して暴力を振るうのは、その暴力の中に、業務上必要な要素が含まれていませんから、パワハラではなく単純に暴行罪(刑法第208条)が成立します。

相手にけがを負わせれば、傷害罪(刑法204条)となります。

 

<正当防衛になるのか>

それでは、暴言に対抗しての暴力は正当防衛になるでしょうか。

刑事上は犯罪となる行為が、多くの場合、民事上は不法行為にもなります。つまり、刑罰の対象になるとともに、損害賠償の対象にもなります。

 

刑事上の正当防衛は、刑法第36条第1項に規定があります。

 

【刑事上の正当防衛】

第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

 

暴言によって侵害される名誉権や人格権を防衛するために、暴力は必要が無いですから、「やむを得ず」という条件を満たしません。

 

民事上の正当防衛は、民法第720条第1項本文に規定があります。

 

【民事上の正当防衛】

第七百二十条  他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。

 

こちらでも「やむを得ず」という条件がありますから、暴言を吐いた人でも、暴力を振るった人に対して、損害賠償の請求ができることになります。

 

<懲戒処分はどうするか>

会社の懲戒処分は刑罰ではありませんが、国法である刑法や民法の趣旨に反する懲戒は、客観的合理性や社会通念上の相当性が否定され、懲戒権の濫用となってしまうことがあります。〔労働契約法第15条〕

就業規則に具体的な懲戒規定があることを前提に、暴言を吐いた社員も、暴力を振るった社員も懲戒処分の対象となります。

また、刑法上も暴力は暴言よりも重い罪ですから、一般には暴力の方が重い処分になります。

そして、懲戒規定には「情状酌量」についての定めが含まれているでしょう。

暴言を吐いた社員が、暴力を誘発する意図で行っていた場合や、何度も止めるように言われながら暴言を発し続けたような場合には、情状酌量の面から、暴言を吐いた社員は一段重い懲戒処分、暴力を振るった社員は一段軽い処分ということも考えられます。

懲戒処分とは別に、その立場でその仕事をこなすことに対する適性の判断から、人事異動も検討しなければなりませんし、人事考課への反映も忘れてはなりません。

 

<他の社員への説明>

冒頭に挙げたように、他の社員は様々な意見を持っています。

懲戒処分は、処分された本人だけでなく、他の社員にとっても納得のいくものでなければ、会社に対する不信感が大きくなってしまいます。

なぜこういう処分になるかは、他の社員たちにも十分説明する必要があります。

 

社会保険労務士 柳田 恵一