懲戒処分で許されない不意打ち

懲戒処分で許されない不意打ち

<就業規則が必要ということ>

懲戒処分を有効に行うためには、就業規則に具体的な規定のあることが必要です。

しかし、これは規定が必要だということであって、規定さえあれば十分ということではありません。

架空の例ですが、ある会社の就業規則に次のような規定があったとします。

 

【遅刻、早退、欠勤等】

第●条 労働者は遅刻、早退若しくは欠勤をし、又は勤務時間中に私用で事業場から外出する際は、事前に会社に対し申し出るとともに、承認を受けなければならない。

 

【懲戒解雇】

第●条 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。

○  1か月のうちに無断で3回遅刻したとき

1か月に3回も無断で遅刻したら、解雇されても仕方がない場合もあるでしょう。

しかし、2回目まで誰も注意を与えず、遅刻してきた社員をニヤニヤして見ているだけだったのに、3回目の遅刻で突然「はい、就業規則の規定により、あなたは解雇となります」ということにはできないのです。

 

<懲戒処分の有効要件>

労働契約法は、懲戒処分が無効となる場合について、次のように規定しています。

 

【懲戒】

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

 

裏を返せば、懲戒処分が有効となるためには、次の2つの条件を満たすことが必要です。

・客観的に合理的な理由があること

・社会通念上相当であること

 

このことからすると、1回目の無断遅刻のときに、上司など会社側は最低でも次のアクションを起こすことが求められます。

・無断遅刻はいけないことであり、ルール違反であることの説明。

・無断遅刻について、本人の弁解を聞くようにすること。

 

無断遅刻について注意を与えなかったり、正当な理由の有無を確認しなかったりというのでは、2回目以降の無断遅刻が発生しても強く責めることはできません。

それにもかかわらず、懲戒処分を行うと「客観的に合理的な理由がある」ともいえませんし、「社会通念上相当」ともいえませんから、その懲戒処分は懲戒権の濫用となって無効になります。

 

こうしたことを踏まえて、厚生労働省のモデル就業規則の規定は、次のようになっています。

 

【懲戒の事由】

第61条 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第41条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

③正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、  回にわたって注意を受けても改めなかったとき。

 

このように、懲戒処分の有効要件〔労働契約法15条〕に配慮した規定となっています。

 

<遅刻の再発を予防する労務管理>

遅刻の再発を予防するため、遅刻した社員に対して上司が取るべき行動には次のようなものがあります。

 

・出勤時刻になっても姿を現わさないので、連絡してみたが応答もなく、みんながとても心配していたことの説明。

・健康状態は大丈夫か、仕事や家庭の事情で疲労が蓄積していないか、夜はしっかり眠れているか、何か心配事があるのではないかの確認。

・やむを得ず遅刻する場合には、事前に会社に申し出て承認を受けるルールがあることと、その具体的な方法についての説明。

 

上司からこのようにされたら、本当は明け方まで友人と居酒屋にいて寝坊したのであっても、「二度と遅刻しないようにしよう」と考えるものです。

少なくとも、他の社員が見ている前で、机を叩きながら「遅刻するなバカヤロー」と怒鳴るパワハラ上司よりは尊敬されるでしょう。

部下にルール違反があった場合の対応についても、管理職の教育が重要だということです。

 

社会保険労務士 柳田 恵一