女性社員を昇給対象外とすることの正当性

女性社員を昇給対象外とすることの正当性

<理論上許される場合>

「女性社員だけ昇給しない」と決めて昇給しないのであれば、一般には労働基準法違反となってしまいます。

ただし、男女平等の人事考課により、合理的な昇給制度を運用した結果、偶然、女性社員だけが昇給しなかったのならば、適法ということになるでしょう。

また、社内で男性社員の賃金水準が女性社員に比べて低い場合に、男女間の格差を是正するための措置として許される場合もあります。

しかし、会社側がこれらの適法性を証明するのは容易ではありません。

また、例外的に適法性を証明できたとしても、その正当性が支持されるとは限りません。

<法令の規定>

憲法の平等規定を受けて、労働基準法に男女同一賃金の原則規定があります。

 

日本国憲法14条1項

すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 

労働基準法4条

使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

 

<裁判所の判断>

日本シェーリング事件の最高裁判決があります(平成元年12月14日)。

Y社で「賃上げは稼働率80%以上の者とする」旨の賃上げ協定の中の条項について、生理休暇、産休、育児時間による欠務を欠勤として算入するとの取扱いがなされました。

これに対し、生理休暇、産休、育児時間による欠務のため賃上げを得られず、また、旧賃金を基礎とした一時金の支給しか受けられなかったXらが、Y社に対し、賃金差額、債務不履行ないし不法行為により受けた損害の賠償を求め勝訴しています。

この判決は、賃上げ協定の中の条項が公序に反することを理由としています。公序というのは、公の秩序です。男女平等という公の秩序に反する条項は無効だということです。

 

民法90条

公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

 

<政府の方針>

平成22(2010)年8月31日には、厚生労働省が「男女間賃金格差解消に向けた労使の取組支援のためのガイドライン」を作成し公表しています。

そして、ガイドラインの趣旨を次のように説明しています。

 

男女雇用機会均等法などの法整備が進み、企業でも女性の活躍の場が広がっていますが、男女間賃金格差は先進諸外国と比べると依然、大きい状況にあります。また、多くの企業が男女間賃金格差を計算したこともないとの実態もあります。

今回作成したガイドラインは、賃金や雇用管理の在り方を見直すための視点や、社員の活躍を促すための実態調査票といった支援ツールを盛り込んでいます。現実的な対応方策を示すことで、労使による自主的な見直しの取組を支援していきます。

 

現在では、働き方改革の中で、同一労働同一賃金が求められています。

家庭の中で女性の果たす役割を固定的に捉え、これを前提として賃金を決定するというのは、同一労働同一賃金の考え方に反します。

すでに男女同一賃金は「当たり前のこと」として、次の段階に入っています。

 

「女性社員だけ昇給しない」という事実は、それ自体が適法な場合であっても、社会の大きな流れには逆らっているわけですから、お客様からも世間からも支持されるものではありません。

 

社会保険労務士 柳田 恵一